菅野裕臣
わたくしが志部昭平君に最初に会ったのは,1968年4月志部君が東京教育大学大学院修士課程 (言語学専攻)に入学した時だった.1)中期朝鮮語の研究志部君の学問の特色については次のように言いうる.2)日本の朝鮮語研究の紹介 − 「日本における朝鮮語研究1945-1991」.できるだけ日本人のものの紹介につとめると言っていた.
a) 特に用言終止形語尾の体系 (陳述法,疑問法,願望法) − 諸論文.志部君は今後この手の小論文をいっぱい書いていくつもりだとよく言っていた. b) アクセント − 『諺解三綱行実図研究 』 c) 言語資料の書誌学的研究 − 「乙亥字本楞嚴経諺解について」.この分野で志部君は文宇通り日本の最高峰をなしていたとわたくしは断定しうる.またこの分野で韓国の安秉禧,趙炳舜,李東林,南豊鉉の諸先生にたいへんお世話になったことを特記しなければならない. d) 諺解本の様式と文語 − 「朝鮮の文宇ハングル − 訓民正音制定と新文語の育成について」.この分野で志部君は極めて緻密な考察をなした. e) 漢字語 − 「朝鮮語における漢字語の位置」.志部君は朝鮮語で漢字語が固有語へと転化する例を中期朝鮮語から数多く見出し,おもしろい論を展開しようとしていた. f) 日本文字資料 − 「陰徳記 高麗詞之事について − 文禄慶長の役における仮名書き朝鮮語資料」. g) 中期朝鮮語文法 (未完) − 「中期朝鮮語1-4」.
h) 中期朝鮮語史 (未完).
g) も h) も 『諺解三綱行実図研究 』 にその萌芽がいっぱいつまっている.またかれは中期朝鮮語の単語族について考察をすすめていた.
3)現代朝鮮語の解説 − 「朝鮮語と日本語 − その構造の類似性と差異性について」他.
4)日本語教育その他
「故志部昭平氏は岡山大学と東京教育大学大学院で江実,河野六郎両教授に満洲語学と朝鮮語学を師事,昭和五十年以降国立国語研究所と千葉大学での中期朝鮮語研究の成果たる 「諺解三綱行実圖研究 」により平成四年三月十九日東北大学より博士号を授与されたが志半ばにして病没された.その功績は誠に不滅である」
『故志部昭平先生の業績と思い出 』,朝鮮語研究会,1994年8月 所収